(日本人) 橘玲:著 メモ

(日本人)

(日本人)

 日本人論の本です。とてもむずかしくて、あまり理解できなかった。日本人は特別なもんじゃなくて、実はとても世俗的な民族ですよ、という話。

 「残酷な〜」や「亜玖夢博士のマインドサイエンス入門」でも登場した進化心理学を丁寧に解説し、夢も希望もない仮説がもりだくさん。恐るべし進化心理学、神も仏もないとはこのことで、この本が売れることで日本は無神論者だらけになってしまうかもしれない。

 リバタリアン的な生き方、国家に頼らずいきていける経済力をもつことが大切だと。それはなるほどなと思った。

 最後はめずらしく橘さんの「夢」が語られております。

 彼女とのデートで指輪を贈る代わりに現金を渡せば売春になってしまう。家事(シャドウワーク)に応じて時給でお金を払えば、妻ではなくお手伝いさんだ。このように、愛情空間にお金を持ち込むと人間関係は簡単に破綻する(子どものテストの成績で小遣いの額を決める親がいるがこれは最悪の方法だ)。

ここまでのまとめ(1)
・社会は「政治空間」と「貨幣空間」から構成されている

・政治空間▼家族や恋人、友人や知人などの人間関係でできた共同体(統治の倫理)
・貨幣空間▼他人同士がモノとお金のやり取りでつながる世界(市場の倫理)

市場原理主義グローバリズム)▼貨幣空間が政治空間を侵食すること
・アンチ・グローバリズム▼貨幣空間の侵食(市場の倫理)に対して、統治の倫理で対抗しようとすること

・武士道▼日本版の「統治の倫理」
・日本人▼明治維新の後、西洋との接触によって人工的につくられた自画像(オリエンタリズム

 そのうえ男と女では、生殖機能のちがいによって愛情のかたちが異なっている。
男の場合は、精子の放出にほとんどコストがかからないから、より多くの子孫を残そうと思えばできるだけ多くの女性とセックスすればいい。すなわち、乱交が進化の最適戦略だ。
 それに対して女性は、受精から出産までに10ヶ月以上もかかり,無事に子どもが生まれたとしてもさらに一年程度の授乳が必要になる。これはきわめて大きなコストなので、セックスの相手を慎重に選び、子育て期間も含めて長期的な関係をつくるのが進化の最適戦略になる(セックスだけして捨てられたのでは、子どもと一緒に野垂れ死にしてしまう)。
 男性は、セックスすればするほど子孫を残す可能性が大きくなるのだから、その欲望に限界はない。一方、女性は生涯にかぎられた数の子どもしか産めないのだから、セックスを「貴重品」としてできるだけ有効に使おうとする。ロマンチックラブ(純愛)とは、女性の「長期志向」が男性の乱交の欲望を抑制することなのだ。
 これまで人類は、文学や音楽、映画などで男と女の「愛の不毛」を繰り返し描いてきた。しかし進化心理学は、あなたが恋人と分かり合えない理由をたった一行で説明してしまう。すなわち、「異なる生殖戦略を持つ男女は"利害関係"が一致しない」のだ。

 すなわち老化とは若さの源泉であり、思春期により多くの子どもをつくるためにそれ以降の時期を犠牲にする進化の仕組みだったのだ。
進化論の医学への適用はまだ始まったばかりで、ここで述べたことがすべて定説になっているわけではない。しかしこの簡単な紹介だけでも、この新しい科学が人間に対する理解を根本から変える可能性を秘めていることがわかるだろう。
 進化は私たちのこころをつくり、感情を生み出しただけでなく、運命をも支配しているのだ。

ここまでのまとめ(2)

・脳のOSは因果律(原因→結果)で、確率的な事象複雑系の世界を処理できない

・進化論▼生物はより多くの子孫を残すように進化してきた(子孫を残せなかった生物は淘汰された)
進化心理学▼ヒトのこころ(感情)は、より多くの子孫を残すように進化してきた(愛情など)
・男と女の生殖機能のちがいが愛し方のちがいを生む

・近親相姦の禁忌▼オスがメスを獲得するには、他部族と交換するか、他部族から奪ってくるしかない
・女の交換▼贈与・互酬性の文化
・女の掠奪▼"俺たち"と"奴ら"に集団化しての殺し合い(カニバリズム

・「神」は脳のプログラムから偶然生まれた

ここまでのまとめ(3)

【農耕文明に特有のエートス(行動文法)の成立】
土地(なわばり)への執着→閉鎖性
全員一致での意思決定→妥協
分を守って生きる→身分制
循環的な世界観→非歴史性

【東洋と西洋のエートスのちがい】
アメリカ人のデフォルト戦略▼自分を目立たせる
日本人のデフォルト戦略▼他人と同じ行動をとる

【世界の把握の仕方】
西洋人▼分類→個や論理の重視
東洋人▼関係→集団や人間関係の重視

 世俗的というのは損得勘定のことで、要するに、「得なことならやるが、損をすることはしな」というエートスだ。
 日本が長子相続でまだ貧しかった戦前は、農村の次男や三男は軍隊に行くかアメリカやブラジルに移民するしか生きていく方途がなかった(娘は工場に職を得ればいいほうで、多くは都会に出て女給になるか、からだを売った)。そんな戦前の日本人にとって、台湾を植民地化し、朝鮮半島を併合し、満州国を建国することは、生計を立てる選択肢が増える「得なこと」だと考えられていた。彼らはきわめて世俗的だったからこそ、熱狂的に日本のアジアン進出を支持したのだ。
 しかしその結果は、あまりにも悲惨なものだった。大東亜戦争日中戦争から太平洋戦争まで)の日本人の死者は300万人に達し、広島と長崎に原爆を落とされ、日本じゅうの都市が焼け野原になってしまった。
これを見て日本人は、自分たちが大きな誤解をしていたことに気づいたはずだ。戦争は、ものすごく「損なこと」だった。朝鮮戦争ベトナム戦争を見ても、アメリカは自国の兵士が死んでいくばかりで、なにひとつ得なことはなさそうだった。
 このようにして、戦前は「一億火の玉」となって戦争に邁進した日本人は、他国から侵略されても武器を取る気のないきわめつきの「平和的な」民族となった。日本人の「人格」は、岸田のいうように戦前と戦後(あるいは江戸と明治)で分裂しているのではなく、私たちの世俗的な人格はずっと一貫していたのだ。

ここまでのまとめ(4)

・イングルハートの価値マップ
日本人の「世俗指数」は際立って高い

・世界価値観調査
日本人:家族や友人の期待に反しても"自分らしく"生きたい

・日本人は万葉のむかしから世俗の価値しか認めなかった

・日本の社会は「空気(世間)」と「水(世俗)」でできている

・地縁・血縁を捨てた日本人
「一人一世帯」という特異な文化(単身赴任、ワンルームマンション)
・たまたま出会った場所で共同体(イエ)をつくる▼学校・会社・ママ友
"無縁社会"は日本人の運命
自由貿易は市場を拡大させ、富の総量増やすのだから、既得権を奪われたひとたちにも大きくなったパイの一部を分け与えればいい−−。これが経済学的な最適解だが、そうしたビジネスライクな議論は"鎖国派"にはまったく受け入れられない。

※デモクラシー democracy は「主義=ism」ではなく、神政 theocracy や貴族政 aristocracy と同じ政治制度の名称だから、これを「民主主義」とするのは明らかな誤訳だ。最近の政治学や歴史学では「民主政」「民主制」と訳したり、「デモクラシー 」とカタカナ表記するのが通例になっているが、教科書やマスメディアではいまでに誤訳が広く使われている。

ここまでのまとめ(5)
・経済的なグローバリズム自由貿易(市場原理主義)
・政治的なグローバリズム▼リベラルデモクラシー(アメリカニズム)

・貿易とは国際分業のこと▼自由貿易によって世界はよりゆたかになる
 ▼
グローバリズム(自由貿易)とはユートピア思想

【グローバルスタンダードとはなにか?】
 ▼
古代ギリシアは退出自由なグローバル空間→弁論術(論理)とデモクラシー
キリスト教絶対神は「神々の闘争」を避ける工夫→グローバル宗教
・ギリシア文明(ヘレニズム)とキリスト教(ヘブライズム)の合体▼近代の成立

絶対王政に対抗する思想▼自由・平等・デモクラシー
国民国家▼人類を啓蒙する軍事国家→帝国主義→さらなるグローバル化

ここまでのまとめ(6)
・政治哲学の4つの正義
(1)リバタリアニズム=自由
(2)リベラリズム=平等
(3)コミュニタリズム=共同体
(4)功利主義=進化論的な根拠を持たない正義

・意思決定の三つの方法
 ▼
(1)全員一致の妥協
(2)ルール原理主義
(3)独裁

・グローバルスタンダード(リベラルデモクラシー)▼グローバル空間での絶対の権力
・アメリカは社会そのものがグローバル▼グローバル空間化した世界での唯一の正義

ここまでのまとめ(7)
・前近代:無限責任▼無責任→空虚な中心

・連帯責任(中世のムラ社会)
・近代:有限責任▼自己責任
法(契約)の絶対性

・統治(ガバナンス)▼責任と権限が一対一で対応すること
・会社統治(コーポレートガバナンス)▼株主を「主権者」として統治構造を組み立てる仕組み

・みんなのための会社▼誰も責任をとらない会社

・呪術的な無限責任の世界

このようにして現在では、新興国のキャッチアップ期には自由経済よりも統制経済のほうが有効だという史実を誰も否定できなくなった。80年代後半からの中国の驚異的な経済成長は、共産党一党独裁体制にもかかわらず成功したのではなく、強大な権力による強い統制があったからこそ実現したのだ。

日本ではいったん正社員を雇うと解雇は実質的に禁じられており、企業規模が無限に拡大して行かない限り人事のピラミッドはいずれ崩壊してしまう。そのため解雇の容易な非正規雇用が拡大し、サービス残業て過重労働を強いられる正社員と、いつクビになるかわからない不安定な非正規雇社員という二極化が大きな社会問題となった。

こうした悲劇をなくすには、いったん職を失っても短期間で同等の仕事を見つけられるような流動性の高い労働市場が必要だ。そのための改革はものすごくシンプルで、なおかつグローバルな正義の基準にもかなっている。

(1)定年制を法で禁止する
日本の「終身雇用」とはじつは超長期有期雇用契約のことで、ほとんどの会社では60歳になれば「定年」という名の強制解雇が待っている。これは年齢による差別以外のなにものでもなく、男性でも平均寿命が80歳(女性は86歳)となったいま、多くのサラリーマンにとって60歳はまだまだ働き盛りだから、膨大な人的重をムダにしているとういうことでもある。年令による差別が禁じられたアメリカと同様に、日本も定年制を法で禁止し、意欲と能力があればいつまででも好きなだけ働けるようにすべきだ(イギリでも2011年から定年制が廃止された)。
(2)同一労働同一賃金を法制化する
(中略)
(3)解雇規制を緩和する
定年制を法で禁止し、非正規社員を正社員と平等に扱えば、ほとんどの会社は人件費の負担増で経営が成り立たなくなってしまうだろう。この問題を解決するにはまず、社内において年功序列制度を廃止し、降格や減給も含めた人材の再配置を容易にする必要がある。それても使いきれなぽ人材が社内に残る場合は法で定められたほしょ禁を支払うことで解雇し、労働市場に戻すべきだ。これによって日本でもようやく流動性の高い労働市場が成立し、いまの会社でやりがいのある仕事を見つけられず窓ぎわてくすぶっているひとにも"再チャレンジ"の機会がめぐってくるだろう。

 2008年のリーマンショックとそれにつづく世界経済の混乱を経て、世界の投資家はようやくひとつの単純な事実に気づいた。一部の新興市場を除けば、株式投資はもはやほとんど利益を産まなくなってしまったのだ。

 80年代からの高度成長が終わったアメリカは、既得権のちがいから致命的なたいりつが露呈して社会が分離されてしまった。ヨーロッパでは、ギリシアに端を発したユーロ危機で通過だけでなくEUの解体まで取り沙汰されている。長いデフレがつづく日本では、「50年後には人口が三割減って、65歳以上の高齢者が5人に二人(4割)になる」というような資産ばかりが発表されて、誰も未来に希望化持てなくなってしまった。
(中略)
 この数年で、個人と国家の関係は大きく変わってしまった。私たちはもう、以前ほど無邪気に国家を信じることができなくなっている。
 金融危機のような大規模な経済的混乱が起きると、私たちは個く自然に、国家がそれを「制御」して「正常化」することを期待する。この場合、市場が暴れ馬で、国家は有能な御者となる。だがじつは、混乱の原因は国家にあるのかもしれない。
 9・11の衝撃を受けてFRB金利を大幅に引き下げたことで大規模な不動産バブルか起こり、それが世界金融危機を引き起こした。ユーロ危機の本質は、設計上、重大欠陥のある通貨をヨーロッパという巨大市場に強引に導入したことにある。日本国の1000兆円の借金は、もちろん国家か国債を発行シタからた。どれも原因をつくったのは国家で、(後略)

 だが社会を個人の単純な集合体とするこの考え方は、「私的所有権」を至上の価値とするリバタリアンだけでなく、家族の価値を重視するコミュニタリアン(保守派)にもとうてい受け入れられないだろう。もちろん一般的なネオリベの政策からもかけ離れており、その意味で逆に橋下市長の思想が色濃く反映されている。
 貧しい家庭に生まれた橋下徹は、小学校二年生のときに実父か自殺して母子家庭となり、母親の再婚で大阪に居を移している。アルバイトで生計を立てながら苦学の末に大学を卒業すると、同年、司法試験に合格して大阪で弁護士の道を歩みだした。「誰にも頼らずたった一人で生き延びてきた」とうい自負か、徹底した個人主義の背景にあることは容易にうかがえる。
ネオリベは経済学者など知的なエリートの思想で、大衆からは忌避されるのがふつうだ。しかし橋下市長は、自らの生い立ちによって、どのような言動も「上から目線」にならない。「真面目に努力する貧しいひとたちを全力で支えたい」という言葉にウソはなく、社会的弱者のなかにも熱狂的な支持者が多い。

ここまでのまとめ(9)

・先進国(日本・アメリカ・ヨーロッパ)では株価は上がらなくなった。
バブルの崩壊→中産階級の没落

・大停滞=「用意に収穫できる果実」を食べつくした

国家という「問題」を国家によって解決しようとする矛盾

ネオリベネオコン▼ポスト「福祉国家」の政治哲学
リベラリズム=福祉国家は破綻している
グローバルな正義=法の支配

世界思想

ネオリベを超えていくものはなにか?

 すべてのローカルな共同体(伽藍)を破壊することで国家をフレームワーク(枠組み)たけにして、そこに退出の自由な無数のグローバルな共同体を創造していく。後期近代(再帰的近代)の終着点となるその場所がユートピアへの入り口だとするならば、そこに最初に到達することが、歴史が日本人に与えた使命なのだ。
 これが、私の<夢>だ。<<

ここまでのまとめ(10)

【お金と評判】
・お金▼限界効用が逓減
・評判▼限界効用が逓増

・実名世界▼ポジティブゲーム=できるだけ目立つようにする
・匿名世界▼ネガティブゲーム=できるだけ目立たないようにする

【前期近代(大きな物語)から後期近代(小さな物語)へ】
・後期近代▼<私>中心主義の時代→ナンバーワンではなくオンリーワンへ
再帰的近代▼<私>が<私>を参照する無限ループ→自己コントロール
・超越者のいない、セカイてもっとも世俗的な日本人→後期近代の完成

自由のユートピア

おそらくこれから10年以内に、私たちは大きな社会的・経済的な動乱を経験することになるだろう。それは「世界の終わり」ではないけれど、多くの日本人の人生を根底から変えてしまうような衝撃をもたらすにちがいない。
ここで最後に、もういちどだけ<夢>を語ってみたい。
戦後日本の繁栄を支えてきたシステムが崩壊しつくしたとき、残骸のなかから新しい世界が始まる。国家に依存しない経済的に自立した自由な個人だけが、その混乱のなかで、ユートピアへと達する道、すなわちエヴァンゲリオン(福音)を伝えることができるのだ。